小田原城から少し離れた場所。
青物町交差点のすぐそばにあるお店。
「あきら食堂」。
2022年になっても、完全に昭和のまま時間が止まっている店。
自分は昭和54年生まれなので、末端とはいえ一応昭和という時代をかじっている。
そんな世代の自分でさえも、今の時代にこのたたずまいを見るとちょっと気圧される感覚があるのだから、平成半ば以降に生まれた人にとっては、この手のお店はある種のオーパーツのように映るのではないだろうか。
過去にも何度か店の前を通りかかっており、気になってはいたのだが、その圧倒的なたたずまいと「あきら食堂」というド直球なネーミングゆえに一歩踏み出す勇気がなく、ずっと未訪問のままだった。
そんなお店に、この日、はじめて行ってみた。
ドアを開けて暖簾をくぐると、店内は外見以上に昭和。
床も、壁も、テーブルも、椅子も、お店が歩んできた長い年月をしのばせるだけの年季が入っている。
そのどことなく古ぼけた風合いは、入れ替わりの激しい飲食業界の中で長年営業を続けてきた勲章なのだろう。
昼時を外した時間だったこともあって、店内にお客さんは自分一人。
入り口付近に沿えつけられたテレビには、なぜか往年の動物映画『ベイブ』が映っている。
カウンター席では、注文と配膳を担当しているおばさんがまかないのお昼ご飯を食べていた。
テーブル席について、壁に張り出されているメニューを見る。
The・食堂といった感じの品ぞろえ。
先にも書いたとおり、店内の客は自分一人、厨房では何も作っていないはずだ。
しかし、メニューを見ている間、なぜか厨房から甘辛いタレで炒めたモツの香りが漂ってきた。
そんなモツの香りを感じながら、選んだメニューはこちら。
オムライスだ。
伊丹十三の映画『タンポポ』が公開されて以降だと思うが、ケチャップライスの上にプレーンオムレツを載せた、いわゆる、「タンポポオムライス」が幅を利かせている。
あれはあれで特に否定する気もないのだが、自分にとってオムライスというと、やはり、このかたち。
ケチャップライスを薄焼き卵で巻いたもの。
これこそがオムライスなのだ。
そんな懐かしい風合いのオムライスを、これまた年季の入ったスプーンでさっそく食べてみる。
外側の薄焼き卵にはしっかり火が通っており、変にグジュグジュしたところのない理想的な硬さ。
いつの頃からか、オムレツにしろ、卵焼きにしろ、ゆで卵にろ、卵と言えばやたらと半熟をありがたがる風潮があるような気がするが、何でもかんでも半熟がいいというわけではない。
特に、オムライスの卵はきちんと火が入っている方がいい。
この卵焼きとケチャップライスを一緒に食べているような感覚が旨いのだ。
卵の中のケチャップライスは、鶏肉やハムの代わりに刻んだチャーシューが入っている。
このチャーシューも、いわゆるトロトロ系ではなく、しっかりと噛み応えがあるタイプ。
ケチャップライスとの相性は抜群だ。
ときどき付け合わせのスープを飲みながら一心不乱に食べ続けきれいに完食。
久しぶりに自分が子供の頃に食べていたような、オムライスらしいオムライスを食べた。
ごちそうさまでした。
〇今回の会計
オムライス 700円
大盛 100円
合計:800円
〇店舗情報
あきら食堂
神奈川県小田原市本町3丁目1-24
TEL:0465-22-2977
駐車場:無し
(店舗情報の詳細はお店にご確認ください)