21:00過ぎ、仕事部屋で作業をしていると、消防車のサイレンが聞こえてきた。
「だんだん近づいてくるな…」と思っていると、家の近所でサイレンがピタッと止まった。
近所で火事など起こっていたら大事である。
様子を見ようと玄関から出ると、消防車だけではなく救急車も来ていて、消防隊員と救急隊が近所の家を取り囲み、家の周りをなにやらぐるぐる回っている。
消防車が来ていたので、パッと見た瞬間、この家から火事の通報があり、消防車は消火活動のために、救急車は怪我人の搬送のために呼ばれたものと思った。
しかし、しばらく様子を見ていると、消防隊員が金属の棒を使って家の窓ガラスをガンガン叩いて割り始めた。
ここにきてようやく事の次第が呑み込めた。
一連の流れは以下の通り。
1、この家の人が体調不良となり、救急車を呼んだ。
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2、救急車を呼んだあとで意識を失ったのか、もしくは、歩行が困難になったのか、いずれにせよ何らかの理由で動けなくなった。
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3、救急隊が到着したものの、ドアと窓は施錠されていて中に入れない。
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4、救急隊が消防署に連絡。
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5、消防隊が到着し、窓を破壊して突入を試みる。
こういうことらしい。
家の窓なんぞその気になればすぐに割れると思っていたのだが、実際はそうでもないらしく、消防隊の人が器具を使ってガンガン窓を叩いても、ヒビは入るもののなかなか割れない。
夜の住宅街に窓ガラスをたたく音が鳴り響く。
騒動を聞きつけて、ご近所の人達も家から出てきて様子をうかがっている。
そうこうするうちに消防車がもう一台到着して、消防隊員が梯子を持ち出してきた。
何かに使おうと思ったのだろうが、いざ、現場に梯子を持ってきてみるとなんの使い道もなかったようで、せっかくの梯子はすぐに撤収された。
しばらくすると、原付に乗ったお巡りさんまで現れて、メモを片手に救急隊や隣家の住人に何やら事情を聴いている。
救急車と2台の消防車、事情聴取をする警察官、状況を見守るご近所の人々。
なにやらいっぱしの事件現場のような雰囲気が漂ってきたところに、車が一台滑り込んできた。
騒動の中心になっている家の住人が帰宅してきたらしい。
この住人の登場によって状況は一気に解決に向かった。
帰ってきた住人が自宅のドアのカギを開け、救急隊が中に突入。
役目を終えた消防隊は、割った窓ガラスにダンボールを貼ってから、テキパキと現場を片付けて撤収し始めた。
自分が見ていた位置からはちょうど死角になっていたので、最初に救急車を呼んだ人が実際に搬送されたのかどうかは確認できなかった。
しかし、いずれにせよ、これで夜中のひと騒動は一件落着となった。
自分にとっては完全に盲点だったのだが、今回の一件で、「救急車を呼んだ後はドアか窓を開けなければいけない」ということに気づかされた。
考えてみれば確かに当たり前のことで、普段、家の中にいるときにはドアや窓にカギをかけている。
その状態で救急車を呼んでも救急隊は中に入ってこれないのだ。
元気なつもりではいるものの、年齢的にも体型的にも立派な中年。
いつ救急車のお世話になってもおかしくない。
「家の中で救急車を呼んだときには、倒れる前にドアの鍵を開けておく」
このことはしっかり覚えていようと思った。